トランス脂肪酸を含むマーガリンを日本で規制していないのは何故?

栄養学

バターとマーガリンの違い

バターとマーガリン、見た目では、包装がなければ見分けがつきにくいと思います。

バターの原料は牛乳などの動物性脂肪から出来ており、マーガリンのそれは、植物性脂肪です。

これだけだと、マーガリンのどこがいけないの?と思いますよね。

実は、植物性脂肪は、常温で液体状であり、普通は固形にはなりません。そのため、油に水素を添加することで、固体化するのですが、この過程で、トランス脂肪酸が出来てしまいます。(この辺の説明は、次のリンクをご参照下さい。)

このトランス脂肪酸が、実は動脈硬化などの原因の一つとして注目されています。

そして、トランス脂肪酸はマーガリンだけでなく、揚げ物をする安価な油には、ほぼ含まれているのです。油を高温に熱しただけでも、トランス脂肪酸が生成されることにも注意が必要です。

そして、市販の家庭用油にもトランス脂肪酸は含まれています。

外国での規制状況と摂取率

世界保健機関(WHO)は、成人病予防に向けて、食品中のトランス脂肪酸からの摂取エネルギー量を、総摂取量の1パーセント以下と推奨しています。

 

各国における総脂質及びトランス脂肪酸の推定平均摂取量(農林水産省より引用)

国名(地域) 総エネルギー中の総脂質量(%) トランス脂肪酸としての摂取量(%) 調査時期
WHO 15~30 1.0以下
日本 25.8 0.44~0.47 2005~2007
欧州 1.0以下 2003~2013(規制前)
アメリカ 33 0.5 2011~2012(規制前)
オーストラリア 30.9 0.6 2011~2012(規制前)

 

表から分かる通り、日本は他国と比べて総脂質が少なく、トランス脂肪酸の摂取割合も低くなっています。

欧米やアメリカなどでは、すでに販売時からのトランス脂肪酸の含有量に対する規制が行われているので、表は規制前のデータで示してあります。

(参考)各国・地域における脂質・トランス脂肪酸の摂取量(農林水産省)

トランス脂肪酸を規制する理由は何故?

ではなぜ、トランス脂肪酸を規制しているのでしょうか?

まず、脂質ですが、これは、三大栄養素の一つでもあり、人間が体内で合成できない必須脂肪酸を取るためにも、食事でとることは重要です。

特に、脂溶性ビタミンであるビタミンA,D,E,Kは油とともに摂取することで体に吸収されやすくなることが知られています。

しかし、トランス脂肪酸を取り過ぎると、血中のLDL (いわゆる悪玉)コレステロールを増やして、HDL(善玉)コレステロールを減らします。

その結果、動脈硬化や心臓疾患を引き起こします。WHOによれば、2003年の世界中のトランス脂肪酸による死者は50万人とも報告されています。

海外では、この点を問題視している訳です。

日本ではなぜ販売されているのか?

その逆の働きがあるのがリノール酸(n-6系またはω-6系)です。これは、LDLを減らし、心疾患を減らす、美肌効果があると言われています。

しかし、取り過ぎは体に悪影響を及ぼすため、基準摂取量が決められています。

脂質と脂肪酸に関する調査報告を行っている国際機関によれば、全カロリーの2%(4~5g)としています。

これに対し日本では、平成22、23年国民健康・栄養調査の結果によれば、30~49歳の摂取量の中央値は、以下のようになります。

n-6系 n-3系
成人男子(ℊ/日) 10.0 2.1
成人女子(ℊ/日) 8.4 1.6

 

n-6系で見た場合、国際的な推奨値の倍以上ですから、日本人が、n-6系の脂肪酸の殆どをリノール酸で摂取していることを考えると、トランス脂肪酸の摂取量だけでなく、リノール酸などの摂取量にも気を使うべきことが分かります。

また、日本では、少子高齢化により酪農家の跡継ぎ問題や、1996年をピークとした牛乳の消費量減少により、需要が減っていることで、バターの供給を輸入に頼っていることもあり、価格上昇につながっています。

対するマーガリンは、植物油に水素添加するだけで比較的安く製造できることから、消費者からみれば、安いマーガリンの需要が高まるのも無理はありません。

製造メーカーや飲食店からすれば、トランス脂肪酸を含む植物油の方が、食感の良い製品ができることや、原価を抑えることができることから、利益を追求する企業にすれば、選択肢から外せないのでしょう。

まとめ

  • 日本では、WHO基準に対して、摂取量が低く、国からの表示義務もなく、問題視していない。
  • トランス脂肪酸を多量に摂取すると様々な、心臓・血液循環疾患を引き起こす。
  • 油を使用する飲食店、製造メーカーでは、食感やコストの問題により、トランス脂肪酸を含む安価な油を使用することが多い。

以上より、トランス脂肪酸を避けるためには、マーガリンを避けるだけでなく、安価な油を使用し、高温で揚げた、ポテトフライ、ポテトチップスなどをできるだけ減らす。また、市販の油にもトランス脂肪酸が含まれているので、購入時に賢く選ぶ必要があります。

脂質は必要な栄養ですが外食等で、過度に油物を食べる機会が多い人は、WHO基準を超えている可能性があるので、できるだけ減らすなどの自己防衛が必要ではないでしょうか。

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